初めから丁寧に、少しずつ。まずはTシャツを手に取ってもらいたい。
◯TARROW TOKYOとは?
(1)なぜTARROW TOKYOを立ち上げたのか
由比、草場:
もう20年以上前の話になりますが、僕ら2人は新卒で入った商社の繊維部門で同期の間柄で、「会社関係なく、いつかみんなで仕事ができたらいいね」ということを若い頃から話す仲でした。その後、お互いに会社を辞めて僕は繊維の業界で、草場はPRの業界でお互い代表を務める中で、「いい服が大切に長く着てもらえる世界を作りたい」というタロウのブランドコンセプトに行きつきました。簡単に言えば「自分たちが着たい」、「自分たちが買いたい」と思える服を作っていきます。
由比:
僕らのような商社やOEMの業界は、主要顧客である大手アパレルが要望する服を盲目的に作り、さらにはアパレル同士が激しい価格競争を繰り広げる中で、結果として単価の安い商品が大量に生産され、消費される業界になっています。
国内のアパレル産業は、この30年で市場規模が3割近く減少したのにも関わらず、販売される服の枚数は倍近く伸びています。逆に、服1枚あたりの店頭価格は1990年に6848円だったのが、2019年には3202円と半分以下に下がりました。
大手アパレルは、基本的に自社工場を持っておらず、商品企画と販売(店舗運営)に注力しています。生産面については商社や私たちのようなOEMに多くを依存してきました。アパレル側は商品企画と販売、私たちが生産という分業体制が長らく続いてきました。その結果として、モノづくりのノウハウは商社やOEMに蓄積されることになりました。
ただ、最近では、大手アパレルが直接工場に出向き、自分たちでモノを作り、自分たちで売る形が増えてきています。大手SPAアパレルが急成長する中で、ローコストで大量生産することに業界全体がシフトし、現在の売り場には、素材やデザインを含めて画一的な商品が溢れています。かつて品質やデザインにこだわった商品を共に企画、製造していた小さなブランド群も、ローコスト大量生産の波にのまれ、この10数年間で多くが姿を消しました。
つまり、今までの分業体制が崩れ始めているということです。
草場:
TARROW TOKYOを立ち上げるずっと前に由比と話した時、『仕事で自分たちが作った服で、自分たちもお店で買って着たいと思える商品はほとんどない』と言っていたのを覚えています。『生産は由比、マーケティングは僕がやるので、自分たちもお店で買って着たいと思える服を作って消費者にダイレクトに販売していこう!』ということで立ち上がったのがTARROW TOKYOです。
(2)ブランドコンセプト「いい服が大切に長く着てもらえる世界を作りたい」。
赤鬼、青鬼というユニークなブランドストーリーにはどのような思いを込めていますか。
草場:
赤鬼が大量に服を生産する人たち、青鬼は大量に生産された服を大量に消費する人たち。桃太郎の鬼退治をモチーフにしたブランドストーリーにしています。安い服を大量に作る側も悪いが、そういうものを好んで買っている側にもちょっと待ってと警鐘を鳴らすような思いを込めています。鬼っていう表現自体は極端かもしれないですし、既存のアパレル業界に喧嘩を売っているように見えるけど、ここまで言って本当に大丈夫なの?(笑)
由比:
消費者に、服の選択肢を新たにもう一つ提案していきたいという思いを込めたつもりです。現在の大手SPAアパレルが展開しているビジネスモデルをひっくり返そうとは思っていませんし、消費者のニーズがある限り、残っていくのは間違いありません。鬼は言いすぎだとはわかっていますが、鬼とまで言わなくても、同じように思っている人は結構いるんじゃないかと思っています(笑)。
自分たちで企画、デザインから製造まですべてやるのであれば、国内、海外にこだわらず「自分たちが最良、最適だと信じられるモノ」を作ることを大切にしていきたいです。コスト(販売価格)ありきのモノづくりをすれば品質が犠牲になります。TARROW TOKYOでは、まず品質を考えてモノづくりをしていきます。
(3)良い服とは何ですか?
由比:
今のアパレル業界は、寿司屋に例えると、一皿100円の回転寿司屋と一人3万円の高級寿司屋の両極が圧勝している状態になっています。「良い服」とはと聞かれた時に、あまり洋服を知らない人たちに答えるのは難しいですよね? 回転寿司と3万円のお寿司の味は全然違いますが、じゃあ「良い魚」って何ですかというと、結構難しい質問です。マグロはマグロではないかと。アパレル業界も同じです。ラグジュアリーブランドとファストファッションの二極化が進んでいます。かつてはセレクトショップや百貨店がその間、中価格帯のゾーンを担っていましたが、ファストファッションの台頭で苦境に立っています。中価格帯では、なかなか売れないので、価格を下げる→生産コストを下げる→悪循環が起こり、結果的に生産量で圧倒的にコスト競争力のあるファストファッションには勝てません。
草場:
料理人が勧める飲食サイトが人気を集めています。食に精通している人たち、有名な西欧料理のシェフの人たちが行く日本食屋さん。逆に有名な板前さんが行くフレンチなども知ることができます。味を分かっている人たちがお勧めする店だから、私たちもそのようなお店に行ってみたいと思う。アパレル業界に当てはめてみると、それがまさにOEMをやっている人たち、企画、生産の第一線にいる人たちかなと思っています。彼らが良いと言ったものは、良いに違いないと。元々自分も繊維業界の人間だった立場で言えば、信用ができる人たちです。1着2万円、3万円もするTシャツを一般の人が買っているかといえば、そうではありません。本当に好きな人たちだけ、ブランドのファンだけだと思います。
由比:
話が脱線してしまいましたが、良い服はちゃんと定義できます。原価は高くなりますが、原料や糸、綿の質が良いものは、やはり良いです。縫製をする工場も技術力が低く、雑に縫う工場は安く、スピード重視でどんどん縫えば品質は悪くなってしまいます。ゆっくり1針1針丁寧に縫っている工場は、その分生産スピードが遅くなるため、コストこそ高いですが、品質は間違いなく良いです。ただ、それを一般の方が、購入時に瞬時に見分けることは簡単ではありません。タロウは1枚数万円のラグジュアリーブランドと1枚1000円前後のファストファッションのいずれとも争うブランドではありません。市場が大きく二極化する今だからこそ、本来の意味で価格・品質のバランスが良い服、言い換えれば『良質な中価格帯』とでも言うべきでしょうか?色々話していて、改めて自分たちがやっていることを説明する難しさを感じます(笑)。わからない人は、一度TARROW TOKYOの商品を着てみてください(笑)
(4)アパレルOEMとデジタルマーケティングのコラボで、ファストファッションとの戦いに勝てますか?
由比:TARROWのTシャツは3990円で売っていますが、原価は3000円かかります。ファストファッションの企業はこのTシャツを1990円で売りたいですが、原価が3000円ではそれは絶対にできません。何億枚作ってもこのコストは下がりませんから、1990円で売ることは不可能です。モノづくりの鍵となる工場に関しても我々は多くの現場を見てきた経験があります。25年間ずっとOEMをやってきた我々だからこそ、過去に使った工場の得手不得手が分かるのも目利きの強みだと思います。良い工場で作り、良い商品を生み出せるのはOEMだけです。
草場:
僕らはPR会社でもありますが、PRは第三者発信の手法です。たとえば僕らがクライアントとしてのTARROWTOKYOを世の中に勧めていくことはできます。第三者的にクライアントのこういうところが良いというのを人に伝えることはできますが、自分たちの商品となると少し恥ずかしくなります。第三者発信じゃなくなります(笑)。
でもPRのプロとしてTARROWTOKYOの良さを誠実に世の中に、皆さんに発信していきたいと考えています。
(5)今後の商品展開は
由比:
現在は、ユニセックスでみんなが着られるモノを最小限の品数でスタートしました。今後、ファンが増えてくればそれに合わせてニーズも変わっていきます。
草場:
リクエストがほしいですよね。
由比:
ニーズに合わせて、丁寧に長期戦でやっていくつもりです。広告宣伝費を多くかけて、一気に来年5億円売るぞとか、そういうジャンキーな売り方はお金さえ注ぎ込めばもしかしたらできるかもしれません。でも初めから丁寧に、少しずつ来てもらえる人を自然に増やしていきたい。そして、そのニーズを拾って商品として返していくということを繰り返す。本当の意味の口コミで広がっていってほしい。これがTARROWのやり方です。
今、何よりも嬉しいのは、友人や知人がもう1枚欲しいと言ってくれることですかね。ECで売っているので、こっそり夜中にリピートで買ってくれていたりすると、本当に嬉しい(笑)
最初は付き合いで買ってくれたんだと思いますが、良さがわかってもらえたからこそ、もう1枚ってなったんだと思うので。そういう意味で、特にレギュラーTについては、生地も形も変えずに作ってこうと思っています。もう一枚買いたいと思ったときに、必ず在庫が有る状態でいたい。どんどん新作を出して、購買意欲を掻き立てるのが、これまでのアパレルのやり方ですが、同じ商品を何度も買ってもらえる世界が有っても良いと思いますし、また、それに値する商品を作っていきたいと思っています。
草場:
まずはTシャツを手に取ってもらいたいと思っています。そしてこれいいじゃんと思ってもらえたら次の商品を手に取ってください。少し形が違うなとか、そういうものは除外してもらって全然構いません。お手頃価格といったらおかしいかもしれませんけれども、これはいいかなといった時にすぐに買えて、かつ長く着れて、傷んだら同じものをまた買い替えてくれるという動きが出てくるとブランドとしては本望です。